Lightsail社の紹介がWiredに出ていましたので、この機会に情報をアップデートします。
「電力網の再発明」を狙う、少壮の天才女性科学者:ダニエル・フォン
(2012年7月5日、WIRED)
Lightsail社の圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES: Compressed Air Energy Strage)技術は、電力から圧縮空気を作り、再び電力に戻したときに、70%のエネルギー効率になるとのこと。もしも実用化すれば、レアメタルフリーで安価な、スマートグリッドの有力な蓄電技術になるでしょう。

上の図では、電力から圧縮空気を作るときに、90%のエネルギーが熱として(Heat Storageに)保存されると説明しています。
蓄エネ中に、熱のロスがあるので、80%のエネルギーが、(圧縮空気でタービンを回して発電することで)熱から再び電力に戻り、結局、最初に投入した電気エネルギーの70%が、再び電気エネルギーに戻るという計算です。
この図は、間違いとは言えないのですが、大変誤解を招きやすい図になっています。
熱エネルギーを電力に戻そうとすると、カルノー効率が上限になるので、10度の温度差では最大でも3%しか電力に変換できません。
実際には、電気エネルギーは、熱として保存されるのではなく、圧力エクセルギーとして、Air Stoageの方に保存されます。
電気エネルギーから、圧力エクセルギーへ、そして、また電気エネルギーへ変換するときの効率は、等温圧縮−等温膨張に近付くほど高くなります。この効率が、電気→熱→電気 の過程で、それぞれ90%程度になることで、全体のサイクル効率が70%程度になります。
図に書かれているような、熱として保存される%は、この効率計算には入ってきません。
空気の圧縮・膨張のエネルギー効率を高めるポイントは、いかにすばやく熱交換をして等温過程に近づけられるかにかかっています。
Lightsail社の場合は、水を噴霧するということで実現できるとしています。
本当かどうかは、もう少し経たないと分からないでしょう。
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圧縮空気自動車 MDI のAirpodの近況です。
下の写真のように、いつのまにか4輪になっています。

空気エンジンの効率は、43%から68%に向上し、トルクも45Nmまで上がりました。アルミ製のエンジン重量は24kgです。
20気圧まで減圧するレギュレータを外して、直接エンジンを駆動するように改良したとのこと。
一度充填すると、航続距離は120〜150km(欧州の燃費評価基準であるアーバンドライビングサイクルで)とのことですが、車体重量が240kgというスペック値を実現すればの話です。
2012年5月7日、インドのタタ自動車は、MDIの圧縮空気自動車(空気エンジン)の評価が進んでいることを発表しました。数年で製品化される見通しです。
スイスのCATECARがAIRPODの工場を作る話は、暗礁に乗り上げ、訴訟合戦のような醜い状況になりました。想定内の状況です。
MDI社によると、AIRPODの発売予定は、2013年半ばということで、いつまでたっても1年後です。よく同じことを繰り返せるものと感心します。
フランスにAIRPODの工場を作ろうということで、寄付を募るサイトができました。11万3000ユーロ集まったとのことですが、○○○かもしれません。
総じて言うと、MDIは相変わらずですが、少しずつ車としての完成度があがり、製品化に近づいています。
欧州で、自動車のCO2排出量の規制が厳しくなる2014年が、圧縮空気自動車発売のタイミングとしてはありえそうです。
参考情報:
「電力網の再発明」を狙う、少壮の天才女性科学者:ダニエル・フォン
(2012年7月5日、WIRED)
aircars.tk
関連記事:
スイスのCATECAR社、エア・カーAIRPodを2011年3月より出荷する計画を発表 [2010/10/11 19:28]
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その方法は、圧縮時の熱を膨張時(吸熱)に戻してやることでエネルギー保存則は保たれます。
熱力的に圧縮空気エンジンを冷熱エンジンと考えれば解りやすいかと思います。
圧縮エネルギー=冷熱エネルギーとすれば損失計算が容易になります。
水を噴霧するのは熱容量の大きい水を使うことで、断熱圧縮における温度変化を小さくし、外界への熱ロスを抑えることでエネルギー保存効率を高めているように思えるのですが、筆者が熱エネルギーではなく圧力エクセルギーといっている意味がよくわかりません。
また、「空気の圧縮・膨張のエネルギー効率を高めるポイントは、いかにすばやく熱交換をして等温過程に近づけられるかにかかっています」とありますが、なぜ等温圧縮なのか理解できていません。
時間があればご教授お願いします。
コメントありがとうございます。
熱エネルギーとして蓄えられているのではない、ということは、カルノー効率を考えればすぐわかると思います。(熱から仕事に戻せません)
力×変位=圧力×体積変化=仕事 というのは、考え方としてはそのとおりですが、実際には、圧縮するにつれて空気の圧力が上昇しますので、積分計算をすることになります。
圧縮空気の圧力の最大値は、タンクの耐圧で決まって、それをたとえば300気圧とすると、タンク容量分の300気圧の空気が、1気圧まで膨張するときにできる最大仕事量が、圧力エクセルギーです。
もし準静的過程で圧縮・膨張ができると、
空気を圧縮するときに費やした仕事量
=圧縮された空気の圧力エクセルギー
=圧縮空気から取り出せる仕事量
になります。
これができると蓄エネのエネルギー効率100%です。さらに、仕事と電気エネルギーの相互変換の効率が100%になれば、蓄電効率100%になります。
(ここまでの計算には、熱エネルギーはでてきません)
純静的過程として、断熱圧縮・断熱膨張のサイクルを使う場合と、等温圧縮・等温膨張のサイクルを使った場合とでは、圧力最大時の圧力エクセルギーは等温圧縮・等温膨張の方が大きくなります。(高校数学の練習問題レベルの簡単な計算でわかります)
ということは10℃の気体を体積50%まで断熱圧縮して100℃まで上げたとしても、熱エネルギーは回収できないので熱は逃げてしまい、10℃に戻り、圧力も下がる。それを開放して膨張する際の圧力エクセルギーは、等温圧縮のサイクルで50%圧縮した時の圧力エクセルギーと同じってことですか?
確かに同じ圧力だけかけた時には等温圧縮のほうがpΔVの面積は大きいですね・・
ではなぜ水を噴霧するのかが余計わからなくなってきました(笑)
ここに詳しく書いてありましたね。勉強になります
先ほどのURL中のエネルギー密度の計算で、「仮に、300気圧、300リットルの高圧タンクがあるとします。この中の圧縮空気が持つ「圧力エクセルギー」は、37メガジュール(10.4kWh)です。」とあるのですが、
これは等温圧縮の仕事分=p1v1ln(v2/v1)という計算ではないんですか?
計算過程を教えていただけると助かります。
いろいろコメントありがとうございます。
断熱圧縮したあとは、保温をしておかないと、温度が下がって効率が低下します。
このとき、効率が下がる理由は、熱エネルギーが逃げたからというよりは、それによって圧力が下がることによります。あくまで仕事をするのは圧力(大気圧との圧力差)です。
圧力エクセルギーの計算ですが、機械振興協会経済研究所の報告書
「クリーンエネルギー変換技術としての圧縮空気技術の課題と展望調査」
報告書No. H21-3-3A
発行年月 : 平成22年3月
に書いたと思いますので、こちら購入して読んでいただけますでしょうか。
http://www.jspmi.or.jp/system/l_cont.php?ctid=1202&rid=248
http://www.ecofriend.com/ja/1965.html
「2013年に出荷する予定」とあるんですが、どこかで売っているんですか。
http://www.ecofriend.com/ja/1965.html
こちらのリンクによると、「2013年に出荷する予定」とあるんですが、どこかで売っているんですか。
レイオフになったという話も聞きますが。
おそらく同じ方からのご質問かと思います。
LightSailの現状については、ネットにいろいろ情報が出ていますので、お調べになるのは、簡単です。
是非、調べられた内容をこちらに投稿して情報共有いただけますと幸いです。