2011年08月28日

逆エレクトロウェッティングによる靴発電が話題になっているが

ウィスコンシン大学マディソン校の研究者が、逆エレクトロウェッティング現象を利用した発電方式を発明し、ベンチャー企業InStep NanoPower, LLCを設立しました。
靴発電で、数W発電して、靴を無線LANのノードにしようというのですが...

device2
  

エレクトロウェッティング現象とは、電圧をかけると疎水性化合物表面のぬれ性(水とのなじみやすさ)が増す現象です。
 
逆エレクトロウェッティングとは、その逆の現象、とのことです。
導電性液体(例えば水銀など)を誘電体で覆われた2枚の電極ではさみ(=コンデンサと思ってください)、電圧を印加してから、電極間距離を縮めるように圧縮すると、流体が平面上に広がって静電容量が変化する、というような原理を利用して、発電できます。
静電誘導方式の一種です。
 
electrowetting.jpg
 
上の図は、発電原理の説明図です。
aは、電極間の距離を変えることによって静電容量を変化させて発電します。
bは、スジ状の電極をスライドさせることによって静電容量を変化させて発電します。
cは、管に圧力をかけて導電性の液滴を動かすことによって静電容量を変化させて発電します。
dは、静電容量が変化するところの説明図です。
 
(何もエレクトロウェッティング現象を持ち出さなくても、単に静電誘導方式でいいような気もしますが、どうでしょう)
  
 
InStep NanoPower社の靴発電は、この記事の一番上の図のように、靴の中敷きとして、「かかと」と「つまさき」のところに導電性液体を入れた袋を入れて、歩くときに流体が前後に動く動きから、発電しようというもののようです。
  
NTT環境エネルギー研究所の鳥海さんのタービン型靴発電と似ています。
 
 
ウィスコンシン大学のプレスリリースもそうなのですが、 
InStep NanoPower社のウェブサイトを見ると、歩くときに、足("foot"なので、くるぶしから先)一本当たり最大20Wのエネルギーが熱になっていると書いています。
熱になっているエネルギーを発電に利用するだけだから、発電しても、歩く人は余分なエネルギーをとられることはないのだと。
歩くときに発電すると疲れる、というのは、靴発電に関する最も一般的な誤解だと。
 
この会社は、こんなことを、本気で書いているのしょうか。
 
普段、歩くときに、足(靴)で20Wも発熱していたら、足をやけどしてしまいます。
 
 
 
彼らの書いた論文が、Natureの姉妹誌のオンライン誌 Nature Communicationsに、2011年8月23日に掲載されました。
"Reverse electrowetting as a new approachto high-power energy harvesting"というタイトルです。
5月11日に投稿され、7月25日に受理されていますので、レビューはされているようです。
 
この論文を読むと、
「ある論文のデータによると、人の歩行に悪影響を与えずに、1歩あたり最大10W発電できる」
とあります。
 
そんなはずはありません。それが本当だとしたら、みんな、足をやけどしているはずです。
 
 
引用論文をさかのぼると、
"Human-powered wearable computing"という論文がでてきます。
IBM SYSTEMS JOURNAL, VOL 35, NOS 3&4, 1996
1996年の、古い論文です。
 
これを読むと、歩行による発電ポテンシャルの計算が書いてあるのですが、その計算方法は、はっきりいってむちゃくちゃです。
一歩あたり5cm足が下がるときに、身体の重心も5cm下がって、全体重分の位置エネルギーの減少分が全部利用可能という計算になっています。
 
実際には、歩行のときに重心の上下移動はそんなにありません。また、下図に示すように、位置エネルギーと運動エネルギーとの間で周期的にエネルギーが受け渡されます。
もう少し詳しく説明すると、足をおろして身体の重心が低くなることによって減少する位置エネルギーは、熱に変わるのではなく、身体を前進させるための運動エネルギーに変わります。この追加分の運動エネルギーは、足をもちあげるときに位置エネルギーに戻ります。

つまり、歩行に影響を及ぼさずに発電に使えるような位置エネルギー(足を下ろす時に熱に変わる位置エネルギー)はほとんどないのです。
 
walking.jpg
 
(スポーツバイオメカニクス「第10回 歩行のバイオメカニクス」より引用)
 
歩行から、靴や床で発電しようという人は、よくこの図を見て研究していただきたいと思います。
 
 
 
  
それにしても、こんな論文を信じて、靴発電のベンチャー企業を作って、うまくいくのでしょうか???
 
 
ウィスコンシン大学のニュースリリースと、Nature Communicationsの論文を引用して、世界中、非常にたくさんの記事がインターネットに流れています。みんな、こんなことを信じているのでしょうか。
 
 
参考情報:
InStep NanoPower社のウェブサイト

Nature Communications 注目のハイライト

ウェットなエネルギー収集

Harvesting wet energy
Nature Communications, 2011年08月24日

"Reverse electrowetting as a new approachto high-power energy harvesting"

Human gait could soon power portable electronics
(2011年8月23日、ウィスコンシン大学ニュースリリース)

"Human-powered wearable computing"
IBM SYSTEMS JOURNAL, VOL 35, NOS 3&4, 1996
 
「第10回 歩行のバイオメカニクス」
2008年度学術交流支援資金研究報告(電子教材作成支援) 
課題名】38 スポーツバイオメカニクス
 




posted by 竹内敬治 at 20:00 | Comment(8) | TrackBack(0) | エネルギー・ハーベスティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
論文、ちゃんと読んだ?
発電じゃなくて、ハーベスティングですよ。
Posted by at 2012年02月21日 13:06
コメントありがとうございます。

申し訳ありませんが、情報量不足で、何を主張されたいのか理解できません。
以下の点を明確にして、再投稿をお願い致します。

(1)「発電」と「ハーベスティング」をどう使い分けられているか分かりませんので、それぞれの定義と、その定義の出典。

(2)どの論文の、どの文章を、読んでいないと主張されているのか。


念のために、上記記事の趣旨を繰り返します。
 
Nature Communicationsの論文では、「人間が歩くときに最大20Wが熱になる。そのエネルギーを利用することで、歩行に影響を与えず発電できる」、と主張しているが、その根拠とされているIBM論文の計算の前提は不適切であり、実際には人間が歩くために必要なエネルギーを奪うことになる(疲れる)。
 
Posted by 竹内敬治 at 2012年03月10日 09:23
通りすがりのものです。位置エネルギー⇔運動エネルギーというサイクルは、なるほどと思いました。

ところで、上にコメントされている「ハーベスティング」に関して思うのは、この論文などの趣旨と摺るところはもしかすると「疲れてもいいから」発電する、ということなんじゃないでしょうか?
Posted by たかやまそら at 2013年03月31日 23:14
そもそも合計で40J近くが外的エネルギーに変わってるはずです。(この論文のエネルギー計算が正しいかは別として)
それを受け取る地面側のエネルギーを回収しようって話なんだから位置エネルギーうんたらはあまり関係ないと思うのですが・・?

著者さんが話されているのはあくまで内的エネルギーの話だけだと思います。
外部になされたエネルギーを拾えるのなら可能性はあるのではないでしょうか?
Posted by あいぽど at 2014年08月11日 15:33
たかやまそらさん

コメントありがとうございます。

「疲れてもいいから」発電する、というのは、仰るとおり、ひとつの立場です。ダイエット効果のある靴、という売り方も成り立ちます。
「疲れない」と言ってしまうから、誤解を招いてしまうのです。
Posted by 竹内敬治 at 2014年08月14日 20:08
あいぽどさん

コメントありがとうございます。

外的エネルギーとは、人間が歩くときに、地面に対して与えているエネルギーのことを指していますでしょうか。

だとすれば、
エネルギー=力☓変位ですので、体重☓重力加速度☓地面が沈み込む深さ が、おおよその外的エネルギーとなります。これは、歩行される人から失われる位置エネルギーと等しくなります。


40Jの外的エネルギーが地面に与えられるためには、例えば、体重60kgの人が立っている地面が、6.8cm沈み込む必要があります。

60[kg]☓9.8[m/sec2]☓0.068[m]=40[J]

普通の地面は、一歩歩くたびに、6.8cm沈んでしまうようなことは起こりません。
砂浜を歩くようなときには、あるいは、新雪の上を歩くようなときには、一歩あるくたびに身体が沈みます。しかし、このときには、体重が全部掛かる前に沈みますので、外的エネルギーは40Jよりもずっと小さいです。(40Jもエネルギーが移ったら、新雪は解けてしまうでしょう)

ですから、外的エネルギーが40Jとかいうことはありません。

説明わかりにくでしょうか。
Posted by 竹内敬治 at 2014年08月14日 20:24
竹内さん
説明ありがとうございます。

確かにそうですね・・変位がなければエネルギーは働かないですものね。

60kgの人間がコンクリートのように硬い地面を踏んでも、沈み込まなかったらエネルギーは0ですが、力は働いているわけですよね。

では圧電素子のように踏み込んだ力で電気を生むのはどうしてでしょうか。力ではなく、圧電素子の場合もある程度沈んでるのでしょうか。(数ミリとか・・?)

それと質問が多くて申し訳ないのですが(笑)、NTTさんがやられていたタービン型の靴発電の研究はもう終わってしまったのでしょうか?既に完成を迎えたのですか?
Posted by あいぽど at 2014年08月17日 11:00
あいぽどさん

コメントありがとうございます。

圧電素子の場合も、踏んで沈んだ分だけ、エネルギーが投入されて、その一部が電気エネルギーに変換されます。

代表的な圧電材料PZTは、コンクリートよりも少し硬い(ヤング率が60GPaぐらい)ので、コンクリートを踏んでへこむ分ぐらいの変形量です。
これではたいして発電できないので、てこの原理を使って、変形量を増やして発電量をかせぐことになります。

てこの原理を使うというところを、具体的に説明すると、
米国のPowerLEAPの床の仕組みがこのページの下の方に出ています。
http://www.communityhealthcarecampus.com/partners/thefacility.php

PowerLEAPは、ミシガン大を卒業したエリザベスさんが作った会社ですが、今は会社をたたんで別のビジネスをしているみたいです。


NTT環境エネルギー研究所の鳥海さんの研究ですね。最近はお会いしていませんので、様子はわかりません。
Posted by 竹内敬治 at 2014年08月17日 22:22
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