2009年12月13日

25年使えるマイクロデバイス用の原子力電池

米国のWidetronix社は、25年間使える超小型の原子力電池を開発しました。
エネルギー・ハーベスティング(環境発電)とは違って、一次電池の一種ですが、同じような用途への活用が想定されています。

nuclearbattery.jpg
この原子力電池の、燃料にあたるものは、トリチウム(三重水素)です。

トリチウムの原子核は、陽子ひとつと中性子ふたつからできています。トリチウムは、「ベータ崩壊」を起こして電子を放出し、ヘリウム3(原子核は、陽子ふたつと中性子ひとつからできています)へと変化します。
この「ベータ崩壊」の半減期は、12.3年です。トリチウムの原子は、一定の確率でベータ崩壊を起こして徐々にヘリウム3に変わっていきますが、その速度は、12.3年毎に、半分になるというペースです。このペースでベータ崩壊は進むので、24.6年後には、トリチウムの量は4分の1になって、4分の3はヘリウム3に変わっています。

トリチウムを燃料に使うメリットは、幾つかあります。

まず、安全なことがあります。トリチウムのベータ崩壊で出てくる電子は、その運動エネルギーが5.69eVです。eV(エレクトロンボルト)というのはエネルギーの単位で、大体、近紫外線の持っているエネルギーと同じくらいです。皮膚を貫通するほどのエネルギーはなく、紙1枚でも防げるため、紫外線よりも安全、ともいえます。

それから、この電子を受けて発電するのに使うSiCのバンドギャップ(3eVぐらい)に近いので、発電効率が高くなります。あまり強いエネルギーをもっている電子だと、回収できるエネルギーの割合は下がるし、結晶構造を破壊したりするし、いいことがありません。

多孔質のSiC電極の中にトリチウム(やその化合物)を吸着させれば、360度どの方向にでてもエネルギーを吸収できます。

過酷な環境でも安定した発電量が期待されることもメリットです。
Widetronixの原子力電池は、マイナス65℃から150℃まで使えるとのことですが、
ベータ崩壊自体は外部環境には全く依存しないので、デバイスの作りを工夫すれば、
もっと極端な環境でも使えるようにできるはずです。

それから、トリチウムは、重水を生産する原子炉から副産物として得られるので、コストが安いということもあります。


幾つか懸念されることもあります。

公表情報には、出力密度がはっきり書かれていませんが、どのくらいの出力密度が得られるのでしょう。デバイス内のトリチウム密度によっては、かなり出力が小さくなる可能性もあります。
まあ、必要なだけ、デバイスを大きくすれば済む話ですが。

この電池は25年使えるということですが、これは半減期の約2倍、初期燃料が4分の1になるまでです。この期間を過ぎても、すぐに使えなくなるわけではありません。
しかし、トリチウムがデバイスから漏れる可能性もあり、そうなれば寿命は短くなります。
トリチウムは、原子核の周りを電子が一個だけ回っています。トリチウムがイオン化すれば、電子がなくなり、裸の原子核になります。原子核の大きさは、原子の大きさの1万分の1なので、トリチウムイオンは非常に小さく、漏れやすくなります。
逆に、密閉すると、ベータ崩壊でできてくるヘリウム3が気体なので、徐々に内圧が高まっていきます。

デバイスの設計で回避できる問題かも知れませんが、ちょっと気になります。
(今回は、ややマニアックな内容になってしまいました。。。)


軍事用、体内埋め込み用、各種センサーネットやアクティブRFIDの電源への活用が考えられています。

参考情報:
A 25-Year Battery
Long-lived nuclear batteries powered by hydrogen isotopes are in testing for military applications.
(2009年11月17日、Technology Review)

Widetronix社ウェブサイト

Tiny Nuclear Batteries to Power Micro Devices
(2009年12月9日、Live Science)


関連記事:
リモート・ワイヤレスセンサーを25年以上稼働させるTadiranのリチウム電池 [2009/05/31 20:11]




posted by 竹内敬治 at 19:23 | Comment(1) | TrackBack(0) | エネルギー・ハーベスティング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「これで家庭用原子力電池ができて、パソコンを電池の容量を気にせず使えたらな・・・」
と、ついそんなことを考えてしまいました。でも、パソコンに使うとしても大きさはどの位になるのか少し気になります。
Posted by まつ at 2012年07月04日 16:08
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